2012年 07月 07日
013 驚異の古代オリンピック
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驚異の古代オリンピック
トニ―・ペロテット/矢羽野薫 訳
河出書房新社 2004年
1900円
もうすぐオリンピックが始まる。今年はロンドンで。近代オリンピックが1896年にギリシャのアテネで開催されてから、第30回目の大会となるわけだ。
ではそれ以前の、つまり古代オリンピックは、いつから始まったのか?
記録がある限りでは、紀元前776年にそれは開催された。
伝染病の蔓延に困ったエリスの王イフィトスが、アポロンの神殿でお伺いをたてたところ、「争いをやめて競技会を行え」とのお告げがあった。そこで、当時争いを繰り返していたエリスとスパルタが参加して、競技会を行ったのだ。このときの競技は、短距離走一種目のみ。そして優勝したのは、エリスの料理人だったコロイボスという人だった。(と、ちゃんと記録にあるんだね)
ちなみに、なぜ「オリンピック」というのかというと、開催された場所がオリンピア(アテネの西北約800km)だったから。ここはギリシャの神ゼウスの神域だった。
この本では、著者トニー・ペロテットが、断片的な証拠をつなぎ合わせて、古代オリンピックとはどんなものだったかを再現してみせる。一日ずつ順にたどり、オリンピックを追体験してみる試みだ。
古代のオリンピックは、夜明けとともに始まる
夜明け。スタディオン(競技場)にはギリシャ全土から集まった熱狂的なスポーツファンが、少なくとも4万人以上もつめかけている。彼らは社会のあらゆる階層から集まり、貴族と漁師とパン焼き職人とが肩をぶつけ、押し合いへし合いしている。
やがて、10人の審判団が入場する。審判団に続き、選手たちも一人ずつ入場する。
選手はみな全裸で、頭からつま先まで香油がしたたり落ちている。全裸で競技に参加するのは、古代ギリシャの由緒ある伝統だ。「肉体をさらけ出すことを恥じるのは、野蛮人だけだ」と古代ギリシャ人は考えていたのだ。
基本は5日間のプログラムだった
1日目は開会式。午後は自由時間となり、集まった人々は詩を朗読したり、哲学者や歴史家は新しい研究を発表したりして、お祭り気分を楽しむ。
2日目は馬術競技が行われる。映画『ベンハー』などで有名な、4頭立ての凄まじい戦車競争もあった。午後はペンタスロン(5種競技)が行われる。円盤投げ、やり投げ、幅跳び、短距離走にレスリングを加えた過酷な競技で、人気種目のひとつだった。
3日目は宗教儀式が行われる。雄牛100頭が生け贄として捧げられた。夜は祝宴で、生け贄として捧げた肉を観客全員で食べる。
4日目は午前が徒競走、午後は格闘技だ。レスリング、ボクシング、パンクラティオンの3種目がある。どれも、勝利か死かという凄まじいもので、この日観客の興奮は最高潮に達する。
パンクラティオンは、レスリングとボクシングを合わせた究極の格闘技で、反則はないに等しかった。体のどこを殴っても蹴ってもよい。急所を蹴ることも許された。関節をひねる技は当たり前で、首を絞めることさえ OKだった。禁止されていたのは、ただ指を相手の目に突っ込むことだけ。K1もプライドも真っ青だ。今日から見ると残酷で非道な競技だが、古代ギリシャでは最高の人気種目だったのだ。
優勝者にはオリーブの冠
さて最終日の5日目は、閉会式。勝者には、オリーブの冠が授与される。この場でもらえるのは、これだけ。賞品も賞金も金メダルもないが、故郷に凱旋すれば英雄としての待遇が待っている。感激した人々が惜しみなく贈り物を差し出すのだ。現金はもちろん、一生分のオリーブ油、免税の特権、邸宅、年金…。オリンピックで優勝すれば、判事や祭司、大使になるのも簡単だった。2800年も前から、人々を熱狂させてきたオリンピック。個人の名誉かナショナリズムか。そろそろ新しいオリンピックを模索するときが来ているのかもしれない。という難しいことをぬきにしても、本書はオリンピックの前後に読んで損のない、格好の読み物だ。
by kaitekido
| 2012-07-07 17:20
| 「知ってる?」本