2006年 08月 19日
003 RE DESIGN
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RE DESIGN 日常の21世紀
株式会社竹尾 編
原研哉+日本デザインセンター原デザイン研究所 企画/制作
朝日新聞社 2004年1月30日 第四刷
3000円
この本の第一刷は2000年4月だから、紹介するには少々旬が過ぎたか。
だが、もちろん中身は古びてはいない。
きのうちょっと、デザインとは何か? などと考えることがあった。それでこの本を引っぱり出してきたのだ。
デザインというのは、なにもデザイナーというプロだけがする行為ではない。ボクたちが日常に行っていることだ。
たとえば、暑中見舞いのアイデアを考えることもデザインだ。写真や絵を使わない人でも、きっと文字の配置には少しは気を配るに違いない。それも、デザイン。部屋の家具を配置換えすることにも、料理をお皿に盛りつけることにも、デザインという要素は含まれている。
およそ、ボクらが何かをつくり出そうとするとき。頭の中の考えをこの世に「形として」現そうとするときには、必ずデザインという作業がくっついている。
だがデザインというもの、だいたいは、すでにこれまでにある形式の上に乗っかって行われるものだ。
たとえば暑中見舞いなら、「はがき」という形式があって、そのはがきは「紙」という形式を持っていて、たて148ミリよこ100ミリとサイズも決まっている。ボクたちは、そのような既成のデザインの上に、自分のデザインを乗せていっているのだ。
もちろん、それはそれでいい。けれどときには、「もう1ステップ」「前に戻って」考えてみてはどうだろうか。
暑中見舞いは、なにも紙でなくてもいいじゃないか。なにも四角でなくてもいいじゃないか。なにも郵便屋さんに持って行ってもらわなくてもいいじゃないか。
「暑いですね。お元気ですか」というメッセージを伝えることが目的なら、その目的を達成する方法は、他にもあるんじゃないか。
「もう1ステップ」「前に戻って」考えてみよう。
「リ・デザイン」の意味は、そういうことだ。
さてここに、32人のデザイナーたちが登場する。原研哉さんが「リ・デザイン展」のために招集したのだ。
この展覧会は、株式会社竹尾の100周年事業の一貫として計画されたものだ。だからすべて紙にちなむものが、お題となっている。原さんがお題を設定し、建築、プロダクト、グラフィック、照明、インテリアなどさまざまな分野のデザイナーたちがそれに応えた。
あとは、具体的な成果を見てもらうほうが早いだろう。いくつかを紹介する。
建築家、坂茂さんへのお題は「トイレットペーパー」だ。トイレットペーパーといえば丸いロール状のものが決まりなのに、坂さんはごらんのように四角く巻いたトイレットペーパーを考えた。
一見して、これなら収納効率がよい。ということは、輸送効率もよいということだ。トイレットペーパーのような安くてかさばるものは、輸送コストが大きな問題だろう。1台のトラックに少しでも多く積めれば、実に助かるに違いない。
もうひとつ、この形なら、使用するときスルスルと引き出しにくい。つまり、紙が無駄に出すぎないわけだ。とくに公共のトイレなどでは、これもメリットになる。
坂さんは、トイレットペーパーに求められるもののうち、とくに社会性に注目して、リ・デザインした。
これは、「ゴキブリホイホイ」。やはり建築家の隈研吾さんが、リ・デザインした。
素材は半透明で、捕獲したゴキブリがうっすらと見えるようになっている。中に入っているかどうかが、なかなかわかりにくいので、これは便利かも。
製品としてはロール状になっていて、適当な長さに切って、自分で組み立てて使う。ごらんのように長くすることもできるが、これはお遊び。なんだか、ちょっと入ってみたくなる。
これはアートディレクター浅葉克己氏がデザインした、郵便切手。浅葉さんはデザインにあたってとくにタイポグラフィーを重視する人で、世界の文字について調べたりもしている。
浅葉さんは、楷書体の筆文字だけで切手をつくってみた。もちろん字は、自分で書いた。
実用的かどうかはわからないが、美しい文字というものは、それだけでデザインなのだということを教えてくれる。
これは、アートディレクター平野敬子さんが提案するティッシュペーパー。
現在のティッシュペーパーのあの形は、おそらく究極のデザインなのだろう。いくつもの試行錯誤、大小様々な改良改善によって、いまの形になったのだろうと思う。だから実用面では、何も不満はない。しかしティッシュペーパーという品物には、奇妙な気恥ずかしさを感じないだろうか。たとえば来客のあるとき、テーブルの上のティッシュペーパーをそっと隠してしまうような。
あまりにも「実用的」なものであることからくる、この気恥ずかしさ。そんなことに着目すると、こんなティッシュペーパーがあってもいいかと思う。写真は辞書サイズで、たて置きができるようにしたもの。本棚などにさりげなくはさんでおくことができる。
最後に見てもらうのは、小学一年生用の国語教科書をリ・デザインしたものだ。提案者はエディトリアルデザイナーの祖父江慎さん。
祖父江さんは、装丁やレイアウトの問題もさることながら、子どもが最初に言葉に接するステップを考えてみようとした。そこまでデザインの問題なの? と思う人がいるかもしれないが、「ひとつ前のステップ」「もうひとつ前のステップ」に戻って考えていくとそうなる。
そこで、祖父江さんの提案では、世界の言葉の中から日本の言葉「にほんご」を見出すという道筋が仕組まれた。いまの実際の教科書を知らないからなんとも言えないが、なかなか面白いアプローチだと思う。
プロになるほど、「もう1ステップ」「前に戻って」考えることは難しい。いまあるルーティンの中で、さっさと仕事を片づけようとする。けれどときには、この本をパラパラとめくって、頭に刺激を与えるとよい。そんな意味で、手元に置いておきたい一冊だ。
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今日、富山から梨が届いた。
今年は雨が少なかったので、甘みが期待できるという。
その段ボール箱に入っていた緩衝保護材を、撮影の素材に使わせてもらった。本のバックにある緑色のものがそれだ。
務さん、星子ちゃん、ありがとう。
by kaitekido
| 2006-08-19 18:11
| 芸術やデザインや芸能の本